多感な中学生の塾帰りの家出と調査、探すポイントは・・・

生徒も帰り、教員だけとなった塾の教室に一本の電話が鳴った。時間は午後11時である。
「すみません、先生、うちの子もう教室を出たでしょうか」
「ええ、30分ほど前にお見送りしましたよ」
「まだ帰ってきていないんです!」
電話を受け取った教員だけでなく、周囲の顔色も曇った。生徒が家に帰らない。実は塾に勤めていると、しばしば起こることである。保護者は青い顔が目の前に見えそうなほど上ずった声で電話をかけ、教員にはどうにもできないにもかかわらず「どうしましょう」と繰り返す。保護者と二三言葉を交わして、「ではなにかわかりましたら、ご連絡いたします」と言って電話を切った。

こうなるともう、終電には乗れない。生徒の安否がわかるまで教室にとどまるしかないのである。中学生という難しい年ごろで、親とぶつかったり、不満をためこんだりしやすいのだろう。塾で根を詰めて勉強した後、ふいといなくなってしまう子どもが時々いる。大抵の場合、近所のコンビニで仲間としゃべっていたり、友達の家に上がり込んだいたりするところを見つかる。そして親から叱られる。私たち教員はそれを「安心しました」という顔で眺める。

お決まりの流れである。今回も多分に漏れず、電話をかけてきた保護者の子どもはコンビニでぼんやりしているところをつかまった。「携帯に何度も電話したでしょう!どうして出ないの!」母親は叱る。生徒はうつむく。携帯に電話した、でも出なかった。生徒はポケットでバイブレーションし続ける携帯電話とずっと一緒だったのだ。親が本当に嫌なら電源を切ってしまうこともできたのに、彼はそうしなかった。中学一年生。大人の入り口に立ち、体も心も急激な成長を遂げるのに、それを表す言葉をまだ知らない。

言いたいことも言えないし、そもそも何が言いたいのかもよくわからない。でも何かを言いたい。言えない自分にも聞いてくれない大人にも辟易して、逃げ出してしまうのかもしれない。もう少し大人になったら、今度は言葉でうまく言えるさ。直接そう言ったところでにらまれるだけだから、心の中だけでそう呟いて、母親に引きずられて帰る生徒を見送った。深夜1時を回っていた。